棕色賊人 ~ボツ冒頭~

 

 喧嘩の契機はふかふかの包子だった。
 炎帝がお盛んでも風は冷えるよ。首すじの汗を拭いつつ、船頭はもの珍しげに旅人を見やった。
 ほぉぉ西の山かい?岩ばかりで草も生えぬと聞くが。
『それとも修行においでかな。お若い道士様?』
 小舟に揺られ飛雲を追う。泥溶けた水、見えぬ底を眺めて一つ。遠き頂を数えながら、一つ。
 ほど良い歯ごたえ、溢れる肉汁が最高だ。竹筒を傾け喉を潤すとますます食欲が増し、問わず突っ込んだ手は見事な同時で、ぶつかった。
「てめえ、」
「なんだってばよ」
 睨むと唸られ、払えば払い返される。狭い紙ぶくろの中、ぺし、ぺしっと音が競った。
「お前は二つ、食っただろうが」
「お前だって二つだろ」
 最後の一つはまだ温かく、旨そうな匂いで誘ってくる。いや。旨そう、ではなく間違いなく旨いのだ。恨みがましく言いやがるが、譲ってなどやるものか。
「今朝。オレの分まで、粥食っちまうし」
「昨日。オレの麺を搔っさらった」
「だからあれは!その……そのあとに、備えるために」
「……アァ?」
「宿泊まりなんてひさびさだったから、頑張んなきゃいけねえなあって。おかげでサスケもあんあんあんあん、ネコみてえに」
「ッ?!黙れ!!」
 たかぶる血のまま手首を捕らえる。反発は己に取り込み息を吸って、吐き出す自然で力に変えた。捻りが効いたか見事な一回転。
 吹っ飛ぶ包子も道理のとおりで、どしんの瞬間、当然ぽしゃりだ。

「「あぁぁぁぁっ!?」」
 
 嘆きの波紋は滔へに去り揃った声を碧空がまる呑みする。
 鳶も立派な輪で飾ったが、仰ぐ余裕があるはずもない。押しあいへし合い胸ぐら掴んで怒鳴りあった。
「屋台のジイちゃんがせっかく、オマケしてくれたのに!」
「誰が原因だ!厚意を無下にしやがって」
「サスケのせいだろ、意地っ張り!ゆうべだってまだ足んねえナルトもっと欲しいって、食い意地も張りすぎだってばよ」
「だから黙れ!この、」
「孺子ども!!いいかげんにしねえか!」
「あぁそうか、河にとり溢されたいんだな?そっちの金髪はどうせ、辺境のいやしき生まれだろうに!」