【 seesaw-game ~ + ~ 】
「……そういえば」
さてそれから二時間ほど後。
図らずも遅めとなった夕食を摂りながら、思い出したようにサスケは言った。
「結局、もう一つの使用法って何だったんだ?」
視線の先には、卵と醤油と、あとは時間経過のせいで薄黄色へと変色した例のイモもどきの摩り下ろし(トロロというらしい)。
癖が無い割にほのかなコクも感じられ、するすると食べやすいそれは確かになかなか旨かった。
「あぁ、アレのこと?」
同じように丼飯を掻っ込んでいたナルトが、事も無げに笑う。
「なんつーの、潤滑剤の替わり?ホラさ、いつもジェルとかローション使うだろ。まぁ、今日は取りに行くの面倒だったからそこのオイル使ったけど……。とにかく、ああいうのの替わりになるんだってさ」
サスケの箸が、止まる。
「そんでさ、そうすっとちょっとムズ痒いみたいになって、軽く媚薬使ってる気分になれるんだってビーのおっちゃんが……お、やっぱりウマいなコレ!」
サスケは、箸を置いた。
そんな彼を見て、ナルトはもぐもぐ口を動かしながら不思議そうに首を傾げる。
「あれ、サスケもう要らねーの?こういうの嫌いか?」
「……いや」
(あんだけヤッた直後にそんな生々しいこと聞いて、真顔で食えるかこのボケッ!)
今すぐ叫んで丼をナルトに投げつけたいところだが、黙って麦茶を啜る。ひどく咽喉が渇いた後だからか地味に色々あったせいか、それはひどく身体に染みた。
ふぅ、とひとつ嘆息する。
まぁ落ち着け。今日はもうこれ以上疲れたくない。
しかしナルトはその吐息に何を勘違いしたのだろうか。
「あれ、サスケもしかしてキョーミあった!?」
わくわくキラキラと眼を輝かせ、身を乗り出してくる。
「オレってば、食べ物をそういう風に使うのって、やっぱさすがにマズいよなぁって思ってたんだけど。でもさでもさ、サスケがどうっっっしてもシてみたいって言うんなら、」
「……ナルト」
サスケは、立ち上がった。
「オレは、もう寝る」
「え、それって……。お前、ひょっとして遠回しに誘ってんの?もしかして、早速ソノ気になっちゃってたりすんの!?」
まだメシの途中なのに大胆だってばよーっと、ナルトも大急ぎで丼を置くと、無言でリビングから去ろうとするその背を慌てて追い掛けた。
その手に、イモもどきの塊を握り締めて。
「へへ、やっぱ今日は寝かせてもらえねえんだな、オレって」
ば、の言葉と同時に、目前でバンッと寝室への扉が閉ざされた。ガチャッと内側から鍵を掛ける音がそれに続く。
「……あれ?サスケ、サスケー?」
「今後十日間。オレに指一本触れてみろ……」
掠れる程に抑えた声が聞こえる。扉を隔てていなければ、その眼に開いた六弁の紅い花を確認できたことだろう。
「豪火球か、千鳥か、天照か……。あぁなんなら麒麟でも構わねえが」
状況に着いていけずにただどんどんと扉を叩くナルトの動きが、ピタリと止まった。
「それ位は、テメーに選ばせてやる」
「……サスケ」
ごくり、と生唾を飲んで後退りする。冷や汗がたらりと顳を伝って顎から滴り落ち、なんだろう下腹がキュンとす……いやいや、ゾクリとざわめいていた。
あぁ、これはきっと九喇嘛のヤツも相当ビビッてんだろうなと、ナルトは遠い目をしてぼんやり思う。
何故ならば、扉の隙間からは恐ろしく冷たいチャクラが滾々と漏れ出していたのだから……
◇
ちなみに後日、あのシショから何かを察したらしい八尾の人柱力様よりナルトとサスケ両名宛に、箱いっぱいの特製ベビービー佃煮が送り届けられた。
『いくら素材が一緒でも、人間の味付けはどうもボクらには馴染まないんだよねぇ』
と、ガマ竜から拒否されたナルトは仕方なく、困惑を隠せない同期及び師たちへとせっせとそれを配り歩いたのだが。
『……オレにはプロテインをくれなかったくせに、今更よくもこんなものを持って来たものだな』
寡黙な蟲使いをさらに沈黙へと導いてしまい、激しく後悔したのだということはまぁ、七代目火影若き日のちょっとした挿話ということで。