ラブイズエクストラ   ※R18

 

 音ひとつ立てずに、ひそりとそれが忍び込む。なのに感じてしまうのは、かつて与えられた不思議の恩恵ではないとナルトは思う。
(――――あ、)
 サスケが、帰って来た。
 ただそれが嬉しいから、当たり前がやっと当たり前に戻るから。だから今、すぐに気が付くのだ。
 例えばこれが他の誰かだった場合。自分はもっと、素早く察するだろう。既に跳ね起き白を纏い、扉を開いて出迎える。あるいはクナイを構え、チャクラも湛えて対峙するはず。
 接近するまで欠片も解らず、傍に添った途端反応する。この特殊なセンサーは、いつだって彼専用。
(おかえり、サスケ)
 いっとう大事な存在に伝えたいのに、だけど身体は動かない。その姿を早く見たいが瞼さえ上がらなかった。
 最近何かと忙しくて、またも影分身を使い倒した。それで家にも帰れなくなり、情けなくここでぶっ倒れているのだ。
 だけどまぁ、こうして絶妙のタイミングで現れたのだからすべては結果オーライ。間近に寄った気配がじっと見下ろしていることが解る。昏睡なのか、それともただの爆睡か。後者だとすぐに見抜いて、フッとちいさな吐息が鳴った。
 枕元もほんの少し沈むよう。もしかして、とこどもみたいに胸を高鳴らせるが、どうやらこの王子さま、眠り姫にくれてやるキスなど無いらしい。ただ軽く、ほんの微かに髪が揺れた。休息を乱さないよう気遣ってくれているのだと知れる、優しい接触。
 あぁ。早く、はやく言いたいのに。
 サスケ、お帰り。元気だったか?
 すごく、すごく会いたかった。ものすごくお前に会いたくて、いつだってたまらなかった。
 もうすっかり大人なんだから、本当はもっと相応しい言葉を捧げたい。それはイマドキだとかカッコいいとか、お洒落って意味じゃない。いつになっても自分は相変わらずだから、だからなんだか申し訳ないのだ。彼に似合うものは他にもあるんじゃないか。ここに無かったらどうしようと、ナルトだってたまにはふと不安になる。
(なぁ。もっと、もっと近くに来て?)
 微睡みと覚醒の狭間、揺蕩う思考は曖昧だ。それでも結論、最もありきたりな要求に帰結した。シンと張った静寂の内、ごく軽い響きがささやかに奏でる。これはきっと荷物を置く音。次は、外套を外す旋律。まるで夢の中みたいに、薄ぼんやりと推理した。それから、青を伏せたまま淡く微笑む。
 いやいや。コレは現実じゃなきゃ、マズイってばよ?自身にツッ込む狭間、こっそり床を踏む音が近づく。
 あぁ、戻ってくれた。やっとふたりに還ったのだ。
 被った布団は夏用で、ガーゼのカバーが心地良い。それを持ち上げ滑り込み、そし居場所を探している。長身の男が並ぶにはどう考えても狭すぎる平面。そこに割り込んだ当然で、落ち着く幅なんてもちろん無い。背中を捩ってシーツを蹴る。片っぽだけの腕を考えて、そしてなんとか見つけたらしい。
 程なく、背中にぴたりと体温が貼り付いた。ほとんど被さるようにして、全身を覆われる。余裕が無いからこれ以外の選択は出来ないのだろう。だからいつも、サスケはこうしてここで眠る。睦んだ後でもそれは同じで、艶やかな余韻を纏いながらも色気なく抱きつくのだ。
(なんだっけ……この前テレビでやってた、あれ)
 遠い南の島国で、樹に張り付いていた灰色の動物がふと浮かぶ。確か、背中にこどもをおんぶしていた。しっかりと親に掴まるちいさな獣と、なんだか似ている仕草だった。
 張った気配が少しづつ溶けていく。項に触れる吐息もちょっぴり、くすぐったい。
 振り返って抱き締めて、何度もキスして出迎えたい。そしてすぐさま抱き合いたいのに、疲れ過ぎた大人は動けないのだ。やがて呼吸はなめらかに静まり、ゆったりと上下する肌を感じた。
 こんな風に傍で眠れる相手は、絶対にお互いだけ。そんなしあわせに包まれながら、ふたりで静かに寝息を重ねた。

   ◇

 さて、それからどれくらい経った後か。
 ぱちぱちと眼だけを瞬かせ、ナルトは見事固まっていた。
(……動けねえ)
 窓の外はほのか明るいようだが、小鳥たちが鳴き交わすにはまだ早い。シンと空気が澄み、薄藍の光がシーツを柔らかく照らす頃合いだ。
 すぐ傍には何より愛おしい気配。深い休息の中にいるのかぴくりとも身体は動かず、満ちた安堵を緩やかに紡いでいる。
 研ぎ澄まされた刃の如く、なんて喩えられ、絶対の強さを持つ男が無防備に眠っている。重なる存在を厭わず、受け容れすべてを委ねているのだ。
 もちろんそれは嬉しい。たいへん光栄だ。何よりの誇りであり喜びだけど、だけどそれにしても。
 痺れる肩をほんの少しずらそうとする。曲がった脚も伸ばそうとしたが、しかしそんな些細さえ許されない。
「……んんぅ」
 微かに肌が震え、ちいさく咽喉も鳴った。と言っても仔猫のように愛らしいものではない。まるで虎か狼が機嫌を損ねたみたいに、至極不機嫌そうに唸っているのだ。
 ぐ、と掛かる重みが増す。絡んだ両脚にも力がこもり、実に容赦無く締めあげるのである。
(イテテ……痛ぇってばよ、サスケェ!)
 お前、実はわざとじゃねえのか!?
 なんの恨みだと喚きたいのを頑張って堪えた。これもいつものことなのだが、彼は完全に熟睡しながらもひとかけらだって隙は生まない。一体どういう器用なのか、絶妙に急所を押さえ込み完璧なホールドを保つのだ。
 さすがうちはサスケ、体術だって超一流だ。少年時代からそうと思い知ってはいるけれど(ここだけの話、気分転換に組み手をすれば今でも5回に3回は負かされる)、不利を補うために鍛え上げた足技が更に拍車を掛けていた。
 すぅ、とまた穏やかに呼吸をひとつ。そしてぎりぎりと全身が戒められる。
 まったく、どうしてこうもひっつきたがるのか。コトの後、腕の中で眠らせようとしても、その都度ぷいっとソッポを向いて無視するくせに。
 これ以上抵抗すれば拘束はより厳しさを増すだろう。もちろん、力任せに振り解くことは可能だ。無理矢理蹴り上げ腕を返し、身体ごと圧し掛かる。反撃ついでに襲ってひん剥き、離れた距離と隔った時間を思い知らせるため激しく奪い尽してもいいのだけど。
 だけど、とナルトはほんのり笑う。
(そんなこと、出来るわけねってばよ?)
 眺める先は、へその辺り。回った片腕が寄り添って、そしてしっかりと捕えている。右だけでナルトの身体を懸命に抱え、オレのものだと主張するようにサスケは眠るのだ。
「……可愛いなぁ」
 その掌を、左右の指で包み込む。こっそりと呟けば、耳元で同じようにこそり応えた。お前の方が、かわいい。
「あれ、いつ起きたんだ?」
 おかえり、とまずは一番言いたいひとことを口にする。それにはぼぅっとした沈黙が応えたから、違う挨拶で出迎えた。
「おはよ、サスケ」
「……かわいい」
「…………はい?」
 まったく以て、素晴らしく噛み合っていない。
 しかも可愛いとはどういうことだ。こどもの頃は確かに彼より小さく痩せっぽちで、しかも素晴らしくドベだった。だが、今はもう違う。背丈だって並んでいるし、体格も自分の方がシッカリと骨組まれているのだ。
「可愛いって……オレがか?」
 自分たちはそろそろ、揃って不惑の世代へ踏み込む。だから、そんな形容はそもそも不似合いなのだ。それでもサスケについてはやっぱりそう思ってしまうから、ついナルトは口にする。
 もう二十年近く旅を続ける弊害か恩恵か、すっかり憂き世離れした風情を保っている。なんかもう、森の住人みたいになってるからあの人。娘だって、溜め息混じりにぼやくのだ。
 それはただ単に若いとか、時が止まったという意味ではない。忍という存在を突き詰めた結果、不思議な生命体のように感じさせるのだ。
 そんな森の妖精いやおかしな生き物に、何故自分が可愛いなんて言われるのか。こちらはすっかりワーカホリック。どうしてこんなになったんだと何より自身が信じられないくらい、悔しい程ただの大人になってしまっているのだ。
 それでもサスケは頷く。絡んだ指を外し、そしてぎゅぅっと挟まれた。
「最近特に……この辺りが、かわいい」
「コレはメタボじゃねえ普通に筋肉だ!!」
 むしり取るようにぐりぐり引っ張られれば、本気で痛い。抉る勢いで下腹を弄り、しかしサスケはボケッとしている。逆らう身体を決して逃がさず、腹筋が蠢くたび反射のように掴んで抓った。
 これがもう少し優しければ心地よいマッサージだし、意味深なら秘めやかな戯れへと変化するだろう。
 なのに、残念なくらい痛い。押して捩って、珍しいオモチャのように玩びやがる。
「イテェ!止めろサスケ、それホントに痛ぇから!!」
「そうか……痛いのか」
「だから、そう言ってるじゃねえか!?」
 まるで初めて知ったと言わんばかりに、背中でしみじみと噛みしめている。誰も知らないこんな朝惑いは、もはや反則だ。結ばぬ自我が反対方向に作用すればいきなり千鳥をかましてくるけど、そうでない日はこうして曖昧な時間を漂う。 
 もっと幸運なのは、されるがままの従順だ。どんなに髪を撫でても、何回キスしても嫌がらない。そういう朝は、幾歳になってもほんとメチャメチャに可愛い。
 果たして今は、ご機嫌なのかそれともよろしくないのか。攻撃なのかただのじゃれ合いか、判別つかぬまま狭いベッドでひとしきり攻防を繰り広げた。
 絡んだ脚も自然解ける。いつしか身体は向き合って、なんとなくナルトもサスケの腹を撫でた。確かに、自分より固く張っているかもしれない。指先で往復しその感触を羨めば、彼の右手もそれを真似する。ゆっくりと柔らかく擽られ、勝手にぐぅ……っと返事した。
「何だ。腹が減っているのか?」
「あー……そういや、そうだった」
 ようやく常を宿しつつある、なめらかな中低音。静かに問われてやっと思い出した。
 一緒にくるっと寝返りを打って、片手でサイドボードを探る。放り出していた幾つかのうち一つを適当に持ち上げながら、そう言えばと気がついた。
 何時間か前には、疲れ過ぎて空腹だとも思わなかった。身体を保つため食べなくては、と理性で考えるものの、それよりも倒れたくて、とにかく休みたくてたまらなかったのだ
 そのはずが、今はとても餓えている。彼が傍に戻ってやっと、人間の当たり前が蘇った。ここにいるから、ふたりだからこそ本能が生きろと訴えている。
 影分身はお握りだのラーメンだの山と積んでくれていたけど、偶然握ったのはありきたりの蒸しパンだ。でこぼこに膨らんで、不格好に茶色い。寝そべったまま行儀悪く封を切ったら、じっと見つめる視線を感じた。もしかしたら、彼も同じように腹の中が軽いのだろうか。
「サスケも食う?」
 頼りない感触をむしって問えば、頷く替わりに黒が瞬く。
ひとくち分を摘まみながら、忘れず釘を刺した。
「でもこれ、けっこう甘いぞ」
 きっとまだ、意識は目覚めきっていないのだろう。普段であれば辞退するところが、そのまままるく開いた。そっと押し込んで見守る。丁寧に咀嚼しゆっくりと呑んで、途端ムッと口端が曲がった。
「……甘い」
 まるで、騙したなと言わんばかりだ。不機嫌に寄った眉間になんとなくキスしてから、次は自分で確かめてみる。素朴な砂糖は強すぎないが、それでも蜜のように溶けて広がった。
「だから、そう言ったじゃねえか」
 さっきをなぞる言葉を反復すれば、その何気なさにじんわりする。至極どうでもいい、なんてことのない遣り取り。それを重ねるささやかは、どうしてこんなに得難いのだろう。
 食べる度により腹が減るようで、続けて何度もかじり取る。誘われるのか舌が覗いたから、小さなかけらをまた運んだ。
 それを受け取り摂取して、やっぱり甘いと眼を眇める。しかしまた口唇は開いて、ナルトの指を待っているのだ。なんだか、雛鳥に餌を与えているようだった。
 ふと見ると、屑が砂粒みたいに肌を汚している。払うのも面倒で、そのままぺろりと舐め取った。食うばかりじゃ咽喉が渇くだろうから、次はペットボトルを探す。透明を含んで顔を傾ければ、意を知る顎が持ち上がった。少しの迷いも惑いも無く、重ねてゆっくり流し込む。
 水分が消え去っても、もちろん同じ風味を味わう。甘ったるい舌を絡めてやわり噛み付けば、ゆるやかに腕が回った。控えめな力が加わり、ほんの少し引き寄せられる。
 流されるまま被さって、ゆっくりと手繰り合う。しなやかな首筋、なめらかな肩。腕を撫で下ろしてそれから腰。腹をもう一度辿り、太腿にも触れる。伸ばせる範囲、届く限りに精一杯、互いの輪郭を確かめた。
 淡い朝にちいさな音が響く。軽く吸い付き舌を弾き、キスを続けて愛撫した。
「なぁ……しよっか?」
 ストレートに誘いをかけるが、どうやらまだ眠たいらしい。
 どっちでもいい、と愛想無く呟くものの、言葉どおりに適当ではない。首の後ろで重力も増した。そうしよう、それがいいと示しているのだ。
 答えを知って薄いシャツをまくり上げれば、同じ速度でナルトの肌も大気に触れた。

  ◇

 不要な物質など今はすべて床の上。ボトムもインナーも、袖を抜き裏返ったまま散らばっている。
 丸裸になり、素肌を合わせ呼吸を重ねた。触れてただ愛で、そして語った。
 アカデミーのこども達のこと、久々に集った尾獣たちのこと。妙木山ではまたも虫料理攻めに遭い、五影会談後の酒宴は盛り上がった。そして今年、木ノ葉の桜はとても美しく咲いたのだ。
 そんなこんなにサスケが頷く。三本刻んだ頬を擽り、たまに聡く指摘した。言い訳すれば少し笑って、それから彼も旅を綴る。
 珍しい景色を眺めたこと、覚えの良い鷹と出会ったこと。
南の街では研師と知り合い、街を牛耳る小悪党と一戦交えたのは北の果て。戦禍で枯れていた土地にも、ようやく緑が芽吹き始めているらしい。
 だからナルトも頷く。気になることを質問して、答えが返れば時に吹き出す。笑いながら次を強請って、知らぬ世界を垣間見た。
 上になり下になり、組んでは解れまた絡む。黒を撫でれば金色が握られる。そうする最中ふと思い出し、またキスを交わした。睦み合い慈しんで、それぞれの日々を知るのだ。
 探る指は穏やかで、原初の熱も静かに高まる。もちろん身体は反応するが、とりあえず欲望は後回し。それよりも、まずは話して聴きたかった。
 囁き刻んで共有したい。分かたれていたものを、忘れずぜんぶ持ち寄りたい。離れ離れのふたつを結んで、おんなじにしたいのだ。
 そんな風にして、どれだけ針は進んだのだろう。やがて朝陽が差し満ちて、名残の夜もほつれていく。照らされる白い肌は、今更ながらとても美しい。新しい日に縁取られ光帯びる髪を梳き、それからやっと、唯一に繋がる。
 細い眉がきゅっと寄り、ちいさく息を呑んだ。口唇を噛み締め、懸命に耐えているのだ。
「ゴメンな?」
 いつもの宥めを捻りなく唱え、伝う汗を舐めては吸い取る。
 これまで幾度も何年も、片手どころか両手両足、その何倍も抱き合った。それでも何しろ隙間は多くて、月どころか暦がひと巡りした時期もある。
 だからいつも、彼のソコは固く閉ざしている。どれだけ経っても頑なで、覚えこませたつもりが未だ純なのだ。
 それでもサスケは首を振る。自ら大きく脚を拡げ、受け容れ吞み込み許している。許す自分を認めているのだ。大丈夫だと強気に嘯き、たまらない言葉をくれる。
 まだだ。もっと、奥に来いナルト。
「すぐに、思い出す」 
 あぁ、やっぱり。どうしたって餓えてしまう。腕に閉じ込めすべて奪って、奪われ溶け合いそれでも足りない。まだ欲しい。もっと長く、永く深くいつまでもひとつで在りたい。
「サスケ、大好き」
 溢れ出すこの感情は、どれだけ伝えて叫んだとしてもきっと足りない。だから結局、同じ単語を繰り返すのだ。何年経っても幾歳になっても、やっぱりこうして誓うほか無い。
「大好きだってばよ、サスケ」

 ずっとずっと、お前はオレの一番だから。
 オレもお前の一番で、オレたちはきっと、ただオレたちだから。
 それ以外の誰だって何だって、絶対超えられないんだ。

 ゆっくりと己を埋め込み、食まれて取り込まれる。背中を抱いて応えるサスケは、いつもより多く蜜を零した。はァ、ぁ、と伸びやかに啼く。乱れ狂った喘ぎではなく、寝息のようにごく自然に、呼吸の続きで素直に甘えた。
「ナルト……。その、」
「今日はココじゃねえの?」
 いったいどういう気まぐれか、彼の身体はその都度、欲しい場所が違うらしい。思うさま突き上げ激しく暴く時もあるけれど、こんな朝には相応しくないだろう。
 だから抱き締め覆い包み、至近距離で眼を交わした。ゆっくりと揺らめかせ、時間をかけて見つけ出すのだ。
「ぅ……んッ、」
「感じてきた?」
 官能で満ちた表情は、それでも清かだった。凛で彩る黒を緩め、綺麗に青を映している。労わるために、またキスをひとつ。のんびり縺れて戯れた。
 ゆったりと互いの体温に浸かるような、優しいセックス。こんな方法を覚えたのはけっこう最近のことで、これ一つでも歳を取った意味はあったなァなんて、つくづくしみじみ思ったりする。
 自分たちはきっと、世の恋人たちと比べれば、指折る数は少ないのだろう。もちろんそれを補うため、馬鹿みたいに盛って溺れる時もある。だから結局、イーブンってやつかもしれないけど。
 それにこうして穏やかに交われば、また違った性歓を生むことが出来た。敬虔な指先が縒る興奮は無意識に増幅し、結ばれた後じわじわと滲み出す。無我夢中で絡まなくとも、とんでもなく肌が敏感になっているのだ。だからこそ、触れ合うだけで満たされる。
 結局、頻度や濃度なんて問題じゃないのだろう。抱き合う度に嬉しくなる。分け合うことがこんなにも、どうしようもなくしあわせなのだ。
「なぁ、感じてる?」
 ゆるゆると穿つうち、朱を刷く瞼は伏せられていた。そこに問うてしまう理由はナントカ責めではなく、純粋に疑問だからだ。
 そう。それでもたまに、ふと不安に襲われることがある。どれほど重ねどれだけ想い合っていたって、この行為は本来を捻じ曲げている。歪であることに変わりはないのだ。
「ちゃんと、気持ちいいかサスケ?」
 それでもなお、限界まで詰めて嵌め込む。そうすれば、少しだけ眼を見せてくれた。ぎゅっ、とソコにも力がこもる。
「お前は……きもち、良いのか?」
 うん、と正直に頷けば、不敵な笑みが見上げてきた。意地っ張りな彼は言葉にしないけれど、眼元に触れ頬をくるみ、誇り高い口唇を合わせ教えてくれるのだ。
 同じだ。オレも感じている。気持ちいい。
 あぁ、伝わっている。この気持ちは、ちゃんと繋がっている。一緒なんだと改めて思った。
「ん……ぅ、ぁ、ァッ」
「もうダメ?イっちゃう?」
 オレも、もうイキそう。だって、サスケん中すげえイイ。 
 額をくっつけ囁けば、照れくさそうに笑っている。年甲斐も無い自分たちが可笑しくて、変われないから大事だった。
 そしてひとつひとつ段を踏み、丁寧な際まで昇り呼んでみる。あのさぁ、サスケ。言葉にはせず問うてみた。
 
 なぁ。
 オレたち、死ぬまでにあと何回、出来んのかな?

(オレとスんの、好き?)
(オレと一緒にいるの、好きか?)

 オレはお前をちゃんと気持ち良くして、満たせてるか?
 オレはお前を、上手に愛せてるかサスケ。

 先に我慢が出来なくなり、思うさま吐き出した。本能のままウッカリ強く圧迫するが、触れる右手は寄り添い続ける。髪を撫で首筋を辿り、背中に這って腰を押す。自ら深い歓びを紡ぎ、そして重なる隙間に熱を溢れさせた。
 行為の終わり、最も死に近い生を見た後。静かに流れる随喜の涙は、この時だけ。今までに無くこれからも無い、たった一度のひとしずくなのだ。それがこんなにもいとおしいから、何度だって繰り返す。同じが無いこの時を、大切に重ねていくのだ。
 そのまましつこく居すわって、結ばれたままキスをする。心をすべてを解き放ち、ふたりで笑ってまたじゃれた。ひたすら睦んで、ただ抱き合った。
 
   ◇

 この世に永遠なんて有り得なくて、無限だって存在しない。 
 だからこうして精いっぱい、命のかぎり分けて溶けあう。一期一会に愛しあうのだ。
 そう。いつだって、この愛はトクベツ。