可能性のひとかけら

 

 呼びたい、呼ばれたい。声が聞きたい話をしたい、笑い合いたい触れあいたい。
 キスがしたい。キスしてほしい抱きしめてほしいめちゃくちゃに、抱きたい。
 ため込んだ心はぱんぱんのふうせんに似ている。対象が現れた今、優先順位を争って押し合いへし合い破裂寸前なのに、迎える言葉はありきたりの極みだった。

「久しぶり」

 まぁ、適切な選択ではある。お久しぶりですご無沙汰してます、そんで実際、非常にたいへんゴブサタでございます。
 ちょうどと言っては後ろめたいが相談役も不在な幸運、前のめってナルトは早速、キスを迫った。だけどサスケは手のひらで押さえる。口唇をしぶり然るべきで応えた。
「報告が先だ」
「……おぅ」
 夕暮れの影みたいな外套の隙間から巻物が覗いている。しぶしぶと引っこ抜けば銀の四角もきらりと戒め、姿勢を改め白い羽織の襟元も正し成果を紐解いた。
「そっか。ちゃんと根づいたんだな」
「干ばつにも強い種だ。風影と、橋渡ししてくれた火影に感謝すると繰り返していた」
 良い報せ悪い報せで量るとつばさが運ぶ手紙は悪い方に傾くだろう。急ぎの対処が必要な場合が多いためだが、片や、手から手へ繋ぐものは良い方に傾いた。
 そして良い報せだからこそ立ち止まれないのだ。我愛羅に、努めてくれた木ノ葉の皆に伝えなくてはいけない。そうすればまだ足りない何かがもっと良くする方法が、見つかるかもしれない。
 しかしまっさき、光を届けた白い指さきに口唇を捧げる。照れくさそうな黒いうるみが沁みるほどにきれいで可愛くて、あぁやっぱり、コイツが好きだと思った。
「なぁサスケ。一時間、くれ」
「あぁ。一時間だな、ナルト」

    ◇
 
 呼びたい、呼ばれたい。声が聞きたい話をしたい、笑い合いたい触れあいたい。
 キスがしたい。キスしてほしい抱きしめてほしいめちゃくちゃに、抱きたい。
 大丈夫。一時間しかないんじゃなくて一時間もあるのだ。一時間あれば何だって出来る、愛しあってぐちゃぐちゃになって、うたた寝してから立ちあがる。久しぶりから何度だって、始まっていくのだ。

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以下、あとがきもどき。

テーマはもちろん「久しぶり」でしたが、読んでいただくともう一つ勝手にテーマとした「ワンドロ」があからさまだと思います。

ワンドロに参加させていただくことによって得たものはとても大きくて、ワンドロをきっかけにフォローさせていただいたりと新たなご縁もいただきましたし、創作面においても、かなり成長できたんじゃないかと自分では思っております。
そうでなければ、かつてはあんなに苦手だったSSを50話詰めあわせて1冊のオフ本を作るなんて暴挙は不可能でした。

こんな場所でなんですが、初代管理人様、二代目管理人様に心底の感謝を申しあげます。

そしてそれを引き継いでくださった三代目の管理者様、ワンドロに参加して素晴らしいナルサスをがんがん投下してくださる描き手様書き手様へ私なりのありがとうを込めて…と言うとむちゃくちゃポエミーで寒いヤツですが、「一時間しかないんじゃなくて一時間もある」「久しぶりから何度だって、始まっていく」のフレーズおよび【可能性のひとかけら】というタイトルはそちらが由来です。

そしてもちろん、普段は離ればなれでも再会したら瞬時に”いつものふたり”に還ってそしてもっと、強い絆を結んでいく。
そんなオトナルサスが世界と向き合っている雰囲気を出したかった…というのは、捻りの無いいつもどおりです。